コラム/column/

国境を越える「映画監督」細田 守

『時をかける少女』から『未来のミライ』までの12年

『バケモノの子』公開から3年、2018年夏に細田守監督の最新作『未来のミライ』が劇場に姿を見せる。日本の多くのファンが待ちかねていたものだ。しかし本作を待ちわびているのは日本のファンだけでない。いまや大きく広がった世界の細田ファンも同様だ。
実際に『未来のミライ』に対する世界の関心は、日本公開前から抜群だ。5月にはフランス・カンヌ国際映画祭と同時開催される「監督週間」に正式招待された。ここがワールドプレミアの場となった。さらに6月には世界最大のアニメーション映画祭であるアヌシーの長編部門オフィシャルコンペティションにも選出。まずは世界での披露となった。
ここに細田守監督の世界の映画シーンでの現在の立ち位置が見えてくる。世界のなかのアニメーション映画監督としての「細田守」だ。

細田守監督とその作品への海外からの関心は、驚くほど早い時期に辿れる。きっかけは2006年の『時をかける少女』。国内の劇場6館でスタートした本作は、スペインのシッチェス国際映画祭で最優秀長編アニメーション賞を獲得、その後アヌシー国際アニメーション映画祭で長編部門特別賞と相次いで国際的な受賞を重ねた。ここから「細田守」の名前は海外に広がっていく。
『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』と魅力的な作品が続くなか、その評価は着実に高まっていった。いま海外で日本を代表するアニメーション映画監督に言及する際は、真っ先に細田守監督が挙がる。

そうしたなかでの『未来のミライ』である。これまでの積み重ねを受け、本作では早い時期から海外を意識した取り組みがされている。海外でのセールスプロモーションは、2017年初夏のカンヌで始まった。公開前から多くの地域で海外配給が決定した理由でもある。
さらに多くの国で、日本公開から時期を置かない劇場上映を予定している。
『未来のミライ』のスタジオ地図とプロデュースチームが、「同じファンであれば、どの国でも同じように作品を楽しんで欲しい」と考えた結果だ。これまでの日本映画は、まずは国内公開、その評判を得ての海外展開だった。
劇場上映も同様だ。日本映画は海外で、テレビ放送や配信、映像ソフト発売だけにとどまることが少なくない。「映画であれば、まず映画館で観て欲しい」、製作チームのこだわりである。それを実現するのは、長年、細田守作品を支えてきたスタジオ地図をハブとする国境を越えた人的ネットワークだ。『未来のミライ』は、細田守監督と世界のつながりの集大成であり、新しいチャレンジでもある。

一方で『未来のミライ』では、細田守監督に対する世界の目に新たな変化が生まれている。フランス監督協会主催の「監督週間」の特長は、監督の作家性にある。その時に世界で最も注目すべき監督をピックアップしてきた。大島渚も北野武もここから世界での評価を固めていった。
細田守監督は、日本のアニメーションのなかの優れた作り手と見られてきた。しかし、ここでは映画監督・細田守にスポットが当る。
日本、そしてアニメーションを飛び越した映画の作り手。それが「細田守」に向けられた新しい視点だ。『未来のミライ』は、世界における細田守監督の新しい評価の分岐点となりそうだ。

ジャーナリスト 数土 直志